(撮影:小林ばく)
舞台、映画、ドラマにと幅広く活躍中のミュージカル俳優・市村正親さん。私生活では2人の息子の父親でもある市村さんが、日々感じていることや思い出を綴る、『婦人公論』の連載「市村正親のライフ・イズ・ビューティフル!」。第12回は「舞台は神聖な場所だから」です。(構成:大内弓子 撮影:小林ばく)

台詞を腹に落としていく

10月に上演される音楽劇『エノケン』の読み合わせが始まりました。お笑い芸人の又吉直樹さんが脚本を書き、僕は主人公のエノケンこと榎本健一を演じます。

共演する松雪泰子さん、本田響矢くん、豊原功補さんたちキャストの声を聞きながら台詞を口にすると、自分の中の「榎本健一」がちょっと出てきたような感覚があったね。

物真似をするわけではなく、又吉さんが書いた本の中に入っていくと、自然とそういう口調になっていた感じがしたの。

以前、『炎の人』でゴッホを演じた時、彼は実在の人物とはいえ、どういう声だかわからない。まして日本語なんか喋らないでしょ(笑)。だけど、劇作家の三好十郎さんが書いた台詞を喋っているうちに、ゴッホになっていっちゃうの。作家さんの力って、魔法のようで不思議だよね。今回も又吉マジックで、エノケンを生きることができそうな気がしたよ。

エノケンは子どもの頃に映画やテレビで観ていました。何十本も作品があって、「エノケンのXX」とタイトルに名前を冠したシリーズも数知れず。もともとは浅草の舞台から始まって、エノケン一座で大活躍した舞台人。その映像が残っていないのが残念だけど、今回は劇中劇として、その舞台もお見せします。