なぜこんなに苦しまなければならないのか。それは舞台が神聖な場所だからです。お金を払って来てくださるお客様たちに、面白かった、楽しかったと思っていただける世界を作り上げる。それにはやっぱり、とてつもない集中力や繊細さが必要なんだよね。
しかも、舞台で描かれる人物たちは、ハムレット然り、死に向かっていくことも多い。その人生を大切に生きて、感動を届けたいじゃない。
たまにそれがわかっていない人もいるんです。たとえば、舞台上で感動的な場面を演じている時に、若い俳優が勉強の意味で袖から芝居を見ている。こっそり見るならいいけど、舞台に立っている役者の視界に入ってくるのは礼儀知らず。劇的空間に日常が入ってきてはやりにくい。
中には「見てる見てる」と喜ぶ俳優もいるかもしれないけど、僕はやっぱり日常は入れたくないなあ。
僕はいつも、じっと慎重に出番を待ちながら、舞台に出て爆発させる。よりよく役を生きられるように。『エノケン』も緊張感を持って臨みます。