「通勤しない」時代の「住みたい街」とは

こうした「働き方」がさらに進化していくと不動産、とりわけ人々の住まい選びにどのような変化がもたらされるのか。導き出した仮説は「通勤」がなくなるということです。

これまで都心に大きな拠点を構えていた会社も、本社機能のみを残して規模を縮小。その分、多くの社員は自宅近くのコワーキング施設へ向かい、好きな時間に仕事をして帰宅。国の方針もあって副業が公に認められ、インターネットなどを通じ、所属する会社組織と異なる世界の人と付き合い、そこでも収入を得る。

もしこんなワーキングスタイルが当たり前となったとき、住まい選びはどうなるのでしょうか。一つ言えるのは「住みたい街ランキング」がさらに大きく変動するということです。

一日の大半を自宅、もしくは自宅近くのコワーキング施設で過ごす。移動はもっぱら徒歩や自転車。勤務先の会社は異なれども夫婦が同じ街で、もしくは同じコワーキング施設で働く。通勤時間はほとんどなくなり、夫婦や家族が足元の「街」で過ごす時間が大幅に増える。

こうなった瞬間どうなるか。おそらく住まい選びはそれまでの価値基準のいくつかを「リセット」することとなり、特に会社までの「交通利便性」という要素がまったく意味をなさなくなります。むしろ「住む」「働く」「暮らす」などの要素が高いレベルで集積した「街」を志向する動きに変わることになりそうです。

私はこの「リセット」が、もうすぐ起こると考えています。またこの「リセット」を通じ、これまでのように多くのお金や時間を費やして住まいを所有しなければならなかった日本人のあり方や生き方まで変えることになると期待しています。

これから東京に住む人たちはもっと自由に、そして「働き方」や「暮らし方」に応じてしなやかに「街」を選んでいく。

東京で再びオリンピックが開催される未来、私たちはそんな現実と向き合うことになるのではないでしょうか。

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相続ラッシュ、農地放出、働き方改革――2020年以降の東京に一体何が起こるのか?

再開発や新駅設置、湾岸部のインフラ整備など変化の激しい東京23区。「五輪がターニングポイント」と言われるも、その時を待たず「どの街に住むか」で住民が得るメリット・デメリットが大きくなり始めている。

今回、街や不動産の趨勢をテーマにしたヒット本を多く手がけた牧野氏が、五輪後に起こる変化を大予想。輝く街とくすむ街を浮かびあがらせる。