時には、漁業がとんでもない生物を招くことも

熟練の水族館職員さんのもとには、日々漁師から珍しい生物の混獲の連絡が入り、そのたびに港へ行って譲り受けたり、買い受けたりする。中には、自ら底引き網の漁船に乗り込み、自分で混獲物を目利きしてくるようなマニア系飼育員もいるぞ。

そして時には、漁業がとんでもない生物を招くことも。日本の水族館で展示される、世界最大の魚類と言えば? そう、ジンベエザメだ。実は奴はワシントン条約(※)の対象であり、絶滅危惧種になっているので、海で銛で突いてくるわけにはいかない(そもそも、そんな銛が存在するのは、せいぜいゲーム「どうぶつの森*」の世界観ぐらいだろうが……)。

『水族館のひみつ-海洋生物学者が教える水族館のきらめき』(著:泉貴人/中央公論新社)

じゃ、どうやって入手する? という話なのだが、その答えの一つが定置網。海に広く網を張って魚が入ってくるのを待つ漁法なのだが、いかんせん網が迷路のように広いので、ジンベエザメが迷い込むことがあるんだよね。そんな個体を保護して水槽に収容している水族館もある。あの巨躯を誇る人気者は、実は迷子の子猫ちゃんだったのである。

*どうぶつの森:任天堂からシリーズで出ているゲーム「どうぶつの森」。対戦系のゲームと違い、それ自体は主人公が村や島で晴耕雨読のような生活をするのほほんとした世界観なのだが、その主人公が「斧で巨木を切り倒す」「巨大なサメやカジキを腕力で釣り上げる」「ダイオウグソクムシなどの深海生物を生身の潜水で獲ってくる」などの驚異的な身体能力を持つことでよくネタにされる。

そんな世界なら、ジンベエザメは銛でも獲れるかもしれない(なお、ほのぼの系ゲームなので、本家に銛は存在しない)。

※絶滅の危険性のある生物において、主に経済的な国際取引を制限するために締結されている条約のこと