保護――貴重な動物は大体がこれ
さて、ここまででほとんど話題に出てきていない生物がいることにお気づきかな? そう、水族館の人気者、海獣類や鯨類である。日本の水族館には、イルカにアシカにアザラシに、トドにセイウチにラッコにカワウソ、いろいろな生物がいる。そんな子たちは、いったいどこから来るのか?
こういった哺乳類の多くには、先ほどのワシントン条約による規制がかかっている。早い話が、今までの「網持って海行ってきまーす!」ができないということだ。でもその割には、いろいろな種類の海生哺乳類が水族館にいると思わないか?
水族館が海獣類を確保する苦肉の策の一つに「保護」がある。例えば、海でケガをしていたアザラシや、陸に打ち上げられ動けなくなっているイルカは、そのままではいずれ死んでしまう。ただ、こういう生物は普通の動物病院では対応できないので、水族館に緊急搬送されることがある。実は水族館にも獣医がいて、海生哺乳類を治療することができるのだ。
そのあとは、元気になるまで飼育して海に返すこともあるし、事情によっては水族館で面倒を見続けることもある。筆者自身も、こうして保護された大変珍しいイルカやアザラシが水族館で展示されているのを見たことがあり、すごく貴重な機会だったと思っている。
ただ、保護できる生物にも限りがあるし、それすらも最近は禁止するような傾向がある。そうなると、水族館で繁殖をしない限り、展示できる海獣類の数は減る一方である。今や水族館の海獣類は得てして高齢化しており、いずれは寿命を迎えるとともに、展示も縮小されていく運命にあるのだ……。
※本稿は、『水族館のひみつ-海洋生物学者が教える水族館のきらめき』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『水族館のひみつ-海洋生物学者が教える水族館のきらめき』(著:泉貴人/中央公論新社)
水族館は、発見の宝庫だ。
日本全国の水族館の「表」も「裏」も、「酸い」も「甘い」も知り尽くした海洋生物学者が、水族館の真の魅力を解説する。
水族館が100倍楽しくなること請け合いだ。