夏の暑い日にはやっぱりそうめんが食べたい

「アラン・シャペル」では、賄い料理を料理人が当番制で作っていた。僕が担当だったその日はむちゃくちゃ暑く、ツルッとそうめんでも食べたくなるような陽気。だから、フランス人のみんなの食が進むように、油分を控えたさっぱり仕立てのフレンチを作った。

ところが、あろうことか、同僚の一人がひと口食べるなり首をかしげ、生クリームを手に取るやドバドバかけ始めた。もう一人は「これじゃ元気が出ないよ」と、バターまで足してやがる。チーズを盛大に振りかけているやつまでいる。

「なんてことするんだ、だいなしじゃないか」と言いかけて僕は口をつぐんだ。だいなしになったそれを、「こうでなくっちゃ」と言わんばかりの顔で、おいしそうに食べ、おかわりまでしているのだ。

そうか、そういうことか――。

ようやく謎が解けた気がした。あたりまえのことだけど、僕はフランス人じゃない。フランスに長年住み、フランス語を話し、フランス料理を作ることを仕事にしているが、フランス人にはなれない。暑い夏にそうめんが食べたくなる僕は、どうあがいても、しょせん日本人なのだ。

それなのにフランス人気取りで、フランス人のまねをして、フランス人のようにフランス料理を作っていた。