食品とスタッフの検査でなにも見つからず

保健所から受けた説明によると、原因はSRSV(今でいうノロウイルス。当時はまだノロウイルスの正体がつかめていなかった)の可能性が高いという。

SRSVは従来の食中毒とは異なり、食品の中では繁殖せず、カキなどの二枚貝に蓄積していることが多いそうだ。発症した人間の糞便に含まれたSRSVが下水から海へと流れ込み、それが、カキなど二枚貝を媒介にして人の体内に入り、腸内で増殖して発症するのだという。

『三國、燃え尽きるまで厨房に立つ』(著:三國清三/扶桑社)

つまり環境汚染が原因で起こる人災であり、悪いのはカキではなく人間なのである。勉強不足だった僕は、この事実に愕然とした。

感染経路は、カキを食べて感染するケースばかりでなく、感染者との接触による二次感染もあるという。

保健所は、すぐにスタッフ全員の検便を行い、「ミクニ マルノウチ」で扱っている食品をすべて調べ、原因物質の特定と感染ルートの解明に乗り出した。

しかし結果は、ウイルスに汚染された食品は見つからず、スタッフに保菌者もいなかったのである。

保健所の担当者は困っているようだった。

うちの店では、生ガキはいっさい出していない。だから疑うべくは感染者との接触による感染である。このケースだと調理スタッフから99%保菌者が見つかるものらしい。なのに、いない。どうやって感染したかがわからないのに、感染者がたくさん出ているのだ。

現在であれば、ウイルスが別の食材に付着していて外から運ばれてくるケースや吐瀉物で汚れたカーペットを丁寧に掃除しても、汚れが取り切れず、あとになってから空気中にウイルスが浮遊するケースなど、前例がたくさんある。だが、当時はこのウイルスについて情報が少なすぎた。