『「仕方なくひきこもる」のではなく、「積極的にひきこもる」つもりでやるのがポイント』(撮影:藤澤靖子)
先の見えない外出自粛生活。日に日に増えていく感染者数に不安を感じながら、慣れない在宅勤務や、長期休校中の子どものケア、高齢者の健康管理……。大きなストレスを抱える暮らしの中で、どのように心と体の健康を保っていけばいいのでしょうか。「ひきこもり」の診療や研究を長年続けてきた精神科医の斎藤環さんに、その方法を聞きました(構成=古川美穂 撮影=藤澤靖子)

メンタル面に影響が

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言で、大勢の人が自宅にひきこもらざるをえない状況になりました。一般に「ひきこもり」は心身に悪い影響を与えやすいことで知られています。身体的には体を動かさないことで自律神経のバランスが崩れたり、生活習慣病やエコノミークラス症候群などのリスクが上がる。高齢者では特に、筋力が低下して思うように動けなくなる廃用症候群なども生じやすくなるので注意が必要です。

心理面では被害的な感情が強くなり、家族間での対立関係が先鋭化しやすくなる。また、人間は社会的な動物ですから、人と会う機会が減ると強いストレスを感じるのが普通です。そのストレスが一定の臨界点を超えると、強迫神経症やうつ状態になるケースもあります。

東日本大震災の後も、家にこもってテレビで津波の映像を繰り返し見ることで心身にダメージを受ける方が大勢いました。今はある意味で、もっと厳しい面があるかもしれません。状況が日々変わり、しかも悪い変化ばかりでなかなか希望が見えてこない。それが長いスパンでじわじわと起きているので、今後のメンタルへの影響が予想されます。

 

「密室」と「上下関係」という組み合わせは危険

先の見えないなか、どうやって上手に「ひきこもり」生活を送るかについて考えてみましょう。まず、今はひきこもる必要があるのですから、「仕方なくひきこもる」のではなく、「積極的にひきこもる」つもりでやるのがポイント。不本意なことをやらされるのと、自ら進んでやる意識で挑むのとでは、かかるストレスもおのずと違ってくるからです。

また、家族関係も変化します。危機に面して絆が深まるケースもあるでしょうが、反対に、これまで潜在していた問題が増幅しやすくなるのも間違いありません。フランスではドメスティックバイオレンスが3割増えたという報告もあります。そうした事態を防ぐために重要なのが、家族関係を平等にすることです。

「密室」と「上下関係」という組み合わせは非常に危険で、エスカレートすると暴力につながりかねません。ですから、今まで以上に関係を水平にする。たとえば家事分担などは極力公平を心がけましょう。高齢者の介護や子どもの世話なども、家族の誰か一人だけに負担が集中しないように工夫してください。