『コープス・ハント』著:下村敦史

 

3度おいしいミステリー

そのプロローグ、ミスコン出身の美人妻が駅へ夫を迎えに行く途中、暴漢に襲われ連れ去られる、というバイオレンス・シーンにグイッと引き込まれた。そのまま予測不可能な展開と驚愕シーンの連続で、一気読み必至の社会派・青春ミステリーである。

次に8人の既婚女性を殺害したシリアルキラー・浅沼聖悟(しょうご)被告の裁判の場に変わる。死刑を言い渡された直後、浅沼聖悟は8人のうち1人だけは殺していない、模倣犯の真犯人がいると言い出し〈俺は“思い出の場所”に真犯人の遺体を隠してきた。(中略)さあ、遺体捜しのはじまりだ〉と叫ぶ。以前から事件に違和感を抱いていた女性刑事・折笠望美は捜査に乗り出す。

一方、引きこもりの中学生・福本宗太は、動画配信の先輩・にしやん、有名ユーチューバー・セイと3人で、夏休みに遺体捜しの旅に出る。映画『スタンド・バイ・ミー』ユーチューバー版のような少年たちの冒険と、女性刑事の話が交互に描かれていく。

2つのエピソードは別々の物語のように雰囲気が違う。女性刑事が巻き込まれる半グレ集団との攻防戦は、手に汗握るアクション映画そのもの。かたや少年たちのエピソードは、ひと夏のほろ苦いジュブナイルものと思いきや、森深く分け入っていくにつれ、毒母、DV等わけありの境遇、ユーチューバーの裏の顔が見えてくる。およそ重なりそうになかった2つの話が交錯したとき、明らかになる真相には心底驚愕した。─そういうことだったのか、見事に騙された。なんで、ぞわっとしたあのとき、気づかなかったのだろう、私のバカバカ。嬉しさと悔しさがこみ上げる大満足のエンターテイメントである。

『コープス・ハント』
著◎下村敦史
KADOKAWA 1700円