大き過ぎる自転車のフレームにまたがり

山奥の新たな住まいは、最寄り駅から徒歩で2時間もかかる場所にあった。バスなども通っていないため、お父さんが自転車を手に入れてきた。

28インチの自転車は、13歳の少女にとっては大き過ぎて乗り辛かったものの、フレーム(ハンドル下部とサドルを繋ぐ棒)の上にまたがって器用に乗りこなしたという。

「ここにこうやって、足をつっこんでね」と、彼女は大きな身振り手振りを付けて、自転車の乗り方を説明してくれた。パソコン画面に映る上品で美しいぼんこさんからは想像がつかないほど、活発な少女だ。

「私、すごいオテンバだったから。同じ年頃の友達の中では、自転車に乗るのは私が一番上手」

そう言って、ぼんこさんは得意げに胸を張った。

1台しかない自転車を家族が使えるように、お父さんは会社までの2時間の道のりを徒歩で通勤していた。思いやりの深さゆえの大変なご苦労だったと思うが、そこで出番だ! とばかりに立ち上がったのが、ぼんこさんだった。

「馬がやっと通れるくらいの細い山道を、自転車ですいすい走ってさ。父を迎えに行ったのよ」

仕事を終えたお父さんにとって、大き過ぎる自転車を颯爽と漕ぐ末っ子のお迎えは、どれほど嬉しかったことだろう。

帰りは、お父さんが自転車を漕いでくれる。頼もしい背中の後ろに座る帰り道が、最高に楽しいひとときだった。そう語る「元オテンバ娘」は、笑顔に懐かしさを滲ませた。