大人が涙を流す忘れがたい風景
疎開生活を始めてから1ヵ月ほど経った頃、日本は終戦を迎えた。
「山の奥だから、ラジオがぶんぶん鳴ってね。聞きにくかった」
同じ家屋に疎開していた他の世帯も、全員が家の外に出た。みんな地面に座り掌を合わせ、終戦を告げる玉音放送を聞いたのだという。
「親たちが泣いていたのを、はっきり覚えてるの」
大人が涙を流す姿は、子供に強い印象を残すことがある。忘れがたいその風景と共に、終戦を知ってほっとしたような冷静であるような不思議な気持ちを、ぼんこさんは覚えている。
それから半年ほど後、関東の自宅へ戻ったぼんこさん一家は、お父さんの転勤に伴い京都へ移り住んだ。そこで彼女を待っていたのが、宝塚歌劇との出会いだった。
平和が戻った日々の中、京都の同志社中学校の女学生となったぼんこさんは、楽しく通学していた。彼女に宝塚歌劇の素晴らしさを教えてくれたのは、京都でとても親しくなった同級生だった。
「高校生になってから、その親友に連れられて初めて宝塚を観て……もう、びっくり!」
彼女が強い衝撃を受けた演目は、1952年に上演された花組公演『源氏物語』だった。