幕末から明治へと駆け抜けた歌人を描き直木賞を受賞した『恋歌』をはじめ、時代小説を中心にたくさんの作品を発表し続けている朝井まかてさん。「物」をめぐるお話が書きたいと、「目利き」の主人公が全国を旅して思いがけないお宝や人と出合う物語…のつもりで書き始めたそうですが――。(構成:山田真理 撮影:本社・武田裕介)
古いものには物語がある
骨董と呼べるほど上等な物ではなくても、若い頃から古い物が好きでした。海外でアンティークショップをひやかしたり、自宅のある大阪から京都の骨董市へ出かけたり。
古い物には「物語」がありますよね。由緒といった大げさなことではなく、どこで買った、誰と選んだという記憶も含めて。そうした、「物」をめぐるお話を書いてみたいと思ったのが、この時代小説『どら蔵(ぞう)』の始まりでした。
主人公の寅蔵(とらぞう)は、あだ名の通りのドラ息子。大坂・船場(せんば)の道具商の跡取りに生まれながら、なまじの「目利き」自慢が仇となって、大坂にいられなくなってしまいます。
すかんぴんで放り出されたどら蔵が、全国を旅して各地の蔵に入らせてもらっては、思いがけないお宝や、それにまつわる家族の秘密と出合っていく。そんな物語を想定していたのです。
ところが連載を始めてみると、どらちゃんは大坂から伊勢に立ち寄っただけで、ぽんと江戸へ行ってしまう(笑)。私は47歳で初めて小説を書いてデビューしたので、人生はいくつになっても、何が起きるかわからない! を実体験しています。
『どら蔵』(著:朝井まかて/講談社)
