ずっと苦手なエスカレーター

私には尊敬する人たちがいる。歩いて来たままの状態で、スッとエスカレーターに乗れる人たちだ。多くの人がそうなのだが…。

私は、運動神経が鈍いのと乱視のせいもあるのかもしれないが、エスカレーターの縦線と段差の読み取りが苦手で、タイミングがつかめず、スッと乗ることができない。

幼い頃、百貨店に行き、祖母と一緒にエスカレーターに乗れず、下に置いていかれ、祖母はあせったが上昇するしかなかった。当時、エスカレーターの横に女性社員がいて、私を抱き上げて、エスカレーターに乗せてくれて、上で待っている祖母と再会できた。

大人になってからも何段か見送るので、後ろから来た人は二人分の幅があれば、私を避けてエスカレーターに乗る。幅の狭いエスカレーターでは、後ろから「なんだよ」と言われ、押されたこともある。私の様子を動画で撮影したら、自分でも笑うと思う。

休日のショッピングセンターで下の階から上の階へと人が続いているときは、最後尾の人まで待ってから乗る。降りる時も戸惑う。

業界新聞社の記者をしていた時に、百貨店の広報担当の女性と一緒に、改装した店内の各階を取材することになった。勤めている会社のそばにその百貨店はあった。私にも見栄というものがあり、前日に行き、エスカレーターにスッと乗る練習を繰り返し、少しは上達した。

しかし、本番ではあがってしまい、1~3段を見送った。それを各階でやらかした。

広報さんに、「もしかして、エスカレーターが苦手なのですか?」と言われた。その通りなのだと白状したら、広報さんは、「私もそうだったのですが、百貨店に入社したら治りました」と、優しい口調で話した。

しかし、下を見ずにエスカレーターに乗るスマートなカッコ良さは、以前からそうだったようにしか思えない。私への温かい思いやりの言葉と解釈した。