ライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります
階段注意報。上から人が転げ落ちて来ることも
前回の第26回に書いたが、私は幼い頃に父の話す怪談を面白い物語と思ってしまい、『シンデレラ』物語の意地悪な継母と連れ子の姉妹の方が怖かった。さらに、自宅の階段から転げ落ちたことがあるので、怪談よりも階段の方に恐怖を覚えた。
自分が気をつけていても、階段は怖いことが起きることを中年の時に体験した。
残業で帰りが遅くなった終電間際に、混んでいる駅の階段の上から「キャー」という女性の声がした。酔っぱらいにしか見えない中年の男性が、上り方向なのに、フラフラと下りようとして、上る人たちにぶつかるという危険な状態だった。私は階段の端に身を寄せ、上るのをやめた。私の後ろの人たちもそうした。男は階段の下までよろけながら歩き、ホームに大の字になって寝た。助け起こす人はなく、「バカヤロー」の声があびせられた。
そして、今年の夏、私は階段から己の老いを知った。
駅の階段を下りていたら、後ろで、子供たちの「やめろよ」「押すなよ」という声がして、ふざけているのが分かった。子供が転げ落ちたら、私は巻き添えになると思い、走り下りようとしたが、自信がなく、横に動き、階段の手すりに掴まった。手すりに掴まって下りると、安定感があり楽だった。それ以来、駅の階段を下りる時は、手すりに掴まるクセがついた。
70代になると、駅のエレベーターを、ありがたいと思うようになった。
しかし、東京郊外の平日の昼間の駅のエレベーターは、高齢者とベビーカーで満員で、乗れずに待つことがある。階段を使うことにして手すりに掴まると、ゆっくりと降りたり、昇ったりする人が多く、手すり側が渋滞する時がある。高齢社会をしみじみと感じる。