(イラスト:霜田あゆ美)

次に「運動」。日常的に運動量が多い高齢者ほど認知症の発症率は低い傾向にあり、筋肉を動かすことで脳の神経細胞や血流が増え、前頭葉の機能が向上したという研究が報告されています。

筋肉を動かすと分泌されるマイオカインという物質には、脳の神経細胞が減るのを防ぐだけでなく、増やす働きをするものも。また、体を動かすことは、ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の分泌を促す効果もあるとされ、「面倒くさい」となりがちなグレーゾーンの人の意欲低下を遠ざけるためにも最適です。

3つ目の「食習慣と睡眠習慣の改善」は、アミロイドβの蓄積を防ぐために欠かせません。とはいえ年をとるにつれ、胃腸の働きが低下して食が細くなり、味覚や嗅覚も衰えていってしまうもの。もともと料理好きであっても、食事に対するこだわりが失われ、出来合いの総菜やカップ麺で済ませてしまうという人も多いようです。

その結果、塩分や油脂の摂取量が増え、高血圧や糖尿病のリスクを高めることに。これらの生活習慣病は血管にダメージを与えるため、動脈硬化が脳血管性認知症を、糖尿病はアルツハイマー型認知症を引き起こすこともあるのです。そうならないためにも、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。

睡眠も脳をリフレッシュさせる大切な時間です。アルツハイマー型認知症を引き起こすアミロイドβは「脳のゴミ」と言われ、その毒素によって脳の神経細胞が死滅すると考えられています。

この脳のゴミが排出されるのが睡眠中のため、眠る時間を十分に確保することが大切なのです。最近の研究では、平日の睡眠時間が7時間の人に比べ、6時間以下の人は30年後に認知症と診断される可能性が約30%も高いことが報告されています。

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これまで私は、2万人以上の認知症患者を診てきました。進行具合や経過は人それぞれで、認知症になっても日々穏やかに過ごす人もいます。発症したからといってお先真っ暗というわけではありませんが、人生100年時代を楽しむためには、日々の生活の中でできる限り予防を心がけることが大切です。

「効果があるとされることは何でもやる」という総力戦で、次の3ステップを参考に、認知症グレーゾーンからのUターンを目指しましょう。