写真提供:渡辺えりさん
昭和50年代の那須高原を舞台に描かれる人情喜劇『また本日も休診~山医者のうた~』が全国4都市で上演されます。生涯を地域医療に捧げた、医師であり作家の見川鯛山さんのエッセイ「田舎医者シリーズ」を原作とし、2021年に『本日も休診』が上演され、今回2度目の舞台化となります。主人公の医師・見川鯛山役は、前回に引き続き柄本明さんが、鯛山を支える、明るい妻・テル子を同舞台初出演となる渡辺えりさんが演じます。ベテラン役者が揃った本作の見どころや、ご自身の近況についてお話を伺いました(構成:岡宗真由子)

目に見えぬものの大切さを感じる作品

『また本日も休診』の台本は、実際に那須高原の無医村で地域医療に生涯を捧げた、見川鯛山さんのエッセイが基になっています。昭和50年代の村で起きる騒動から、“自然の厳しさ”についても描かれるのですが、主役の柄本さんをはじめ、“濃い”登場人物たちに江口のりこさん、佐藤B作さん、笹野高史さんなどの実力派の役者が揃うことで、ちゃんと笑えるシーンもある舞台になっているんです。私、松金よね子さん、星野園美さんという…3人のおばさんはいつも一緒にいて、私たちのシーンはまた一際にぎやかになるでしょう。味わいとしては、小津安二郎じゃないですけど、淡々とした中に笑いがありながら人間の深みを感じていただけるお話だと思います。

舞台は那須高原ですから、アルプスの山並みから風が吹いてくる場所。その爽やかな「風」を象徴するのが、今回の音楽を担当するアコースティックオーケストラグループのパスカルズさんです。生演奏でお届けします。

フクロウや熊など自然に生きる動物たちが出てきて、それぞれがちゃんと重要な役割を担っているのも面白いです。描かれている自然は、決して甘い世界じゃない。命を懸けて生きているし、亡くなったらまた自然に取り込まれていく。私の故郷は山形ですから、実際、そんな景色を肌で感じて生きてきました。

自然との繋がりを身近に感じ、そして人間どうしも一人一人の関係性が濃かった時代。そんな古き良き昭和はどこか懐かしいような、一方で現代社会からみたら新鮮に映るのかもしれません。田村孝裕さんの演出を持って「目に見えないものの大切さ」が心に染みる作品になっているはず。サン=テグジュペリの作品にあるようなものを感じ取っていただきたいです。