着物による“後方位の魅せ方”の変化

洋服姿のときには、自分の後ろ姿を気にすることは少ないと思います。しかし着物の場合は、帯という豪華な織物が背中で大きく結ばれるため、周りの視線は後ろ姿へも集まります。

この「後方位」への視線に対して、帯が「絵」とするなら、背中を「ゆがみのない背景」に保たなければ、帯という絵は映えません。猫背や巻き肩では後ろ姿は輝かないのです。

この点、着物は太い帯でお腹をしめるので、背すじがピンと伸びた姿を実現します。また、着物は左右の生地を裾から体の半身を覆うように掛け合わせた着付けをします。

さらに女性は繰り越しといって、着物を少し背中側にずらして、首の後ろを少しあけた着付けをします。これにより肩がやや後ろに下がり、胸が開いた姿勢を保つことになります。

こうして後ろ姿は、背中から肩までが広くつながった背景を作り出すのです。そこに帯という絵画が飾られて、魅力的な「後方位の美しさ」も実現してくれるのです。

このように、着物は人の動き方を制限するように見えて、実は「より魅力的に見せるための所作」を導いてくれる衣装なのです。