さらなる問題が浮上
しかし、QさんのSNSでは、これ以上に問題となるものがありました。杉田さんによれば、部下数名から、Qさんの裏アカ(SNSで本名や素性を隠して使う“裏のアカウント”のこと)らしきアカウントがあるという報告を受けました。その裏アカでは、職場に対する悪口など、ネガティブな発信を休む前から繰り返していたようです。
SNSで裏アカを作成する理由は、さまざまあるといわれています。一つは表向きのアカウント(本名などを使用する本アカ)とは別に、本音や愚痴を吐き出す場としてです。また、推し活などリアルの知り合いに見られたくないことを投稿する目的で、こっそりつくられることが多いといわれています。複数の部下がなぜ裏アカはQさんだと気づいたかというと、部署内のメンバーで行った会食の場所や話題にのぼった会話などの投稿が、実際とタイミングよく合致していて、文体も似ているという理由からでした。
確証はないものの、杉田さんが、Qさんではないかという裏アカをチェックしてみると、次のようなことがほぼ毎日投稿されていました。
“うちの会社の広報って地味すぎ”
“自分より学歴が低い上司の下で働くのってどうなの? 同じ気持ちの人いない?”
“スキルを活かせず精神疾患に。休職するしかなかった”
“若い人の発想を活かすことを考えない会社は終わりって思うのは私だけ?”
このアカウントがQさんだとすれば、筆者との面談で話していた内容とも、ほぼ合致します。いずれの投稿も社名などは出していないものの、とにかくネガティブな感情を吐き出しては、共感を求めているものが多くありました。自己肯定感を回復させたかったことは、容易に想像できます。しかし、本名のアカウントを含め、同僚がこのような投稿を見たらどのように思うのか、想像力に欠けていたといえるでしょう。
筆者は、休職や退職に先だっての面談を数多く経験してきました。その際、従来型うつ病の人からは「自分が弱いばかりに申し訳ない」という自責的な言葉が出てきます。それに対し、新型うつ病の場合は、「あの上司では私の能力を活かせない」などという他責的な発言が多いという特徴があります。新型うつ病は、Qさんのように仕事から離れると飲み会や旅行を楽しむほど元気なケースもあるため、「単に甘えているだけでは?」と誤解されがちです。職場で人間関係のトラブルを抱えていることも少なくありません。
しかし、本人は極端な気分の浮き沈みや鉛様麻痺(えんようまひ)(鉛のように身体が重く感じる)に苦しんでいることもあり、社会生活に深刻な影響があります。受診のタイミングによっては、Qさんのようにうつ状態やうつ病などと診断されることもあります。ただ、新型うつ病は必ずしも抗うつ薬が奏功するわけではなく、対応が難しいといわれています。背景にはパーソナリティ障害などが関係していることもあり、対応が難しい疾病だといえます。
上司や職場は、新型うつ病の社員に対して、どのように対応すればよいのでしょうか。