子どものころに出合った、奇妙な光景やぞっとした出来事…大人になった今でも「あれはなんだったんだろう?」と記憶に残っている不思議な体験はありますか。今回は、作家・蛙坂須美さんが体験者や関係者への取材をもとに綴った実録怪奇譚『こどもの頃のこわい話 きみのわるい話』から一部を抜粋し、追憶の怪異体験談をお届けします。
焼肉ハナ
光彦さんは小学一、二年生の頃、友人一家と夕飯を食べることになり、近所の焼き肉屋に連れていってもらったのだという。
その店の名は「焼肉ハナ」といい、狭い路地を抜けた先にあった。
路地の両側にある家の玄関先には、真っ赤な提灯が点々と並んでおり、なんだかお祭りみたいな雰囲気だなと思った記憶がある。
そこは焼き肉屋らしからぬ店構えで、外観はごく普通の一軒家に見える。年季の入った格子戸を開けた先には、思いのほか広い空間が広がっていた。
七輪の置かれた四人掛けのテーブルが、少なく見積もっても二十。そのほとんどが埋まっていた。
で、光彦さんの記憶はこのあたりから急速に頼りなくなってくる。
店内にいたのは皆妙な連中だった。
端的に、異形なのだ。