感性が衰えたのではなく、目が肥えただけ

年齢を重ねると、「昔のように感動できない」「新しいものが楽しめなくなった」と感じることがあります。そのため「年齢を重ねると感性が衰える」という俗説がまかりとおっていますが、私は誤解だと思っています。感性は変わっていない。ではなぜ楽しめないかというと、知識と経験が増えたために、面白さのハードルが上がっているのです。

お笑いがわかりやすいのですが、初めて見たときは大笑いをしたネタも、2度、3度と回数を重ねるとそこまで笑うことはなくなりますよね。

『喪失感の壁-きもち次第で何があっても大丈夫』(著:和田秀樹/中央公論新社)

あるいは、実際に見ている新しいものが、単につまらない可能性もあります。

以前、まだ十代の娘にせがまれてなんばグランド花月に行ったとき、70代、80代のお客さんがゲラゲラ笑っていました。では子どもにはウケないかと言ったらとんでもない、もっと笑っているわけです。

なんばグランド花月は客の年齢層が高めなので、芸のレベルも高いんですよ。

私は常々、M-1グランプリの審査員を全員80代にしたら、芸人たちのレベルが相当アップすると思っています。箸が転んでも笑う年齢を基準にして相手にしていたら、芸人の成長もそこで止まってしまいます。

映画に関しても同じです。

若い頃に観た映画が印象に残るのは、「こんな表現があるのか!」と新鮮に感じた要素も大きいはず。同じ映画でも、何百本も映画を観てきた人にとっては、よくある展開だとか、このパターンは昔の作品の焼き直しだな……と感じてしまうこともあります。

これは感動する力がなくなったわけではなく、自分の目が肥えてきたんですね。