「愛」を語るための神経伝達物質

ここで、「愛」を語るために、いくつかの神経伝達物質をご紹介したいと思います。

・セロトニン…抗うつ効果や、不安軽減効果がある物質とされ、抗うつ薬などの作用機序で重要とされている。

・ドーパミン…快楽の感情、意欲、報酬系と言われる神経系に重要な働きを持つとされている。報酬系とは、何かを手に入れたいと思い、それを手に入れたときに快楽を感じる神経系である。

・ノルアドレナリン…意欲、気分の安定化、心拍数を上昇させて興奮させる働きを持つと言われている。セロトニン同様、抗うつ薬の作用機序で重要視されている。

・オキシトシン…ホルモンでありながら、神経伝達物質としても作用する。ハグをするなど、肌がふれあうような行動をすると分泌が促されることでも有名で、不安の軽減、ストレスの軽減、リラックスした感情、仲間への共感形成などに寄与している可能性が示唆されている。こうした可能性から、「幸せホルモン」などと呼ばれることもある。

・β-エンドルフィン…ドーパミンと同じように報酬系に働く。ストレスに対する抵抗性、多幸感、気分の高揚などの効果がある。その性質から「脳内麻薬」と呼ばれることもある。

『愛の処方箋』(著:精神科医Tomy/光文社)

こうした神経伝達物質は、恋愛の進行時に、大きな影響を与えている可能性があります。好意が「恋」に発展すると、ドーパミンやβ-エンドルフィンなどの報酬系を司る神経伝達物質が影響する。それにより「また会いたい」という気持ちが強くなっていく。それらが「一緒にいると幸せ」という感覚も形作る。

また、恋の最中には、相手のことを考えたり、会ったりするとノルアドレナリンが作用している可能性もある。それによりドキドキしたり、相手のことを考えると、カッと興奮するようになる。いわゆる恋が燃え上がっているときは、これらの物質が大きく影響しているのかもしれません。

そしてさらに「恋」が「愛」に発展していくとセロトニンや、オキシトシンが強く働くようになっていく。不安が減り、落ち着いた気持ちになり、情動が安定化する。またオキシトシンの効果により、相手との間に安定した「絆」の感覚が育っていく。だから「愛」になると満たされていくのです。

好意から恋、そして愛への展開は、神経伝達物質が関わっていると考えると、よりわかりやすいのではないかと思うのです。もちろん、これらは実証されたものではなく、あくまで仮説です。

また、「恋」だからドーパミンやβ-エンドルフィン、ノルアドレナリンが優勢で、「愛」だからセロトニンやオキシトシンが優勢であるといったような話でもないでしょう。おそらく、「恋」であろうが「愛」であろうが全ての物質が関わっているでしょうから。

ただ指摘しておきたいのは、「愛」が成立しているとき、これら神経伝達物質全体が、上手くバランスをとって機能しているのではないかということです。