役作りのアプローチ

歌麿役のお話をいただいた段階では、台本がまだ届いていませんでした。歌麿は渡邉斗翔さん演じる唐丸役から始まりましたし。

ですので、自分が最初にやれるのは、歌麿の作品を見て想像を広げていくこと。絵も表現の一つですので、そこに彼の“人となり”が出ているんじゃないかなって。

そして実際に歌麿の作品を見ると、想像力をかき立てさせられていく。

日本画でありながら奥行きを感じるのはなぜだろうとか、そこに描かれている人物は何を考えていたんだろう、これはどういう瞬間を切り取ったんだろう、といったことを想像していました。

そのうえで一つ一つの絵が「この人は寂しいんだろうな」「嬉しいのでは?」などと、感情の機微を想像させられるものだったので、恐らく歌麿は他人の気持ちを自分の中に落とし込めるような繊細な才能を持ち合わせた人だったのでは、と思うようになりました。

森下佳子先生が書かれた脚本での歌麿も、繊細で複雑な気持ちを抱えた人間として描かれていましたが、その意味で、自分が想像していたものとしっかり結びつけることができました。

実際に出来上がった台本とすり合せをしていくなかでも、自分の中で“点と点”が結ばれていくような感覚を覚えましたね。