知らない男がこちらを見ている
その年の4月に入寮したAさんは、その部屋に引っ越してきた時から押し入れに何かがいることに気がついていたという。日に日にその気配は強くなってくる。経験上、気にすると良くないことはわかっていた。
しかし、ある日の深夜。
押し入れの襖が、少し開いていることに気がついた。
「閉めたはずなのに……」
よく見ると、暗い押し入れの奥から、知らない男がこちらを見ている。
その顔は、じっとAさんを睨みつけていた――。
わかっていたとはいえ、確信に変わった時の恐怖は想像以上だった。頭から布団を被り、「これは気のせいだ」と自分に言い聞かせることしかできない。
それは毎晩続いたという。
「どうしてもというなら、そこにいてもいい。ただ、それ以上はこちらに来ないでくれ」
Aさんは、そう祈るしかなかった。
しかし、その日の夜。
その男は、押し入れから這い出てきたというのだ。
芋虫のように体をくねらせ、近づいてくるその姿にAさんは言葉を失った。
その男には、下半身がない。
どさり――、と感じた重量に背筋が凍った。男は寝ているAさんの上から覆い被さり、喉元に手を掛けると、氷のように冷たい手で首を絞めてきたのだ。
――お前も死ね。
耳元でその声がしたと同時にAさんは絶叫し、管理人室へ駆け込んだという。
彼は、翌日その寮を退去した。
