二人目の退寮者が出た

「まさかそんなこと、本当にあるのかね」

母親は半信半疑だった。

しかし、Aさんが使用していた部屋を掃除するため、晴美さんが手伝いに駆り出された時である。照明を点けようと、蛍光灯から垂れているスイッチの紐を掴もうとしたその時、部屋の中でバチバチと異様な音がした。蛍光灯が点滅している。

「故障?」

母親がそう言った直後、スイッチの紐がぷつりと切れ、床に落ちた。

「ここ、本当に何かいる」

母親と晴美さんは、顔を見合わせた。その後、なんとか部屋の掃除は終わらせたが、その部屋に近づくことはできなかったという。

この一件が、何かのきっかけだったのだろうか。

寮内では、頻繁に怪異現象が起き始めた。

誰もいない部屋からドアを叩く音がする。トイレに見知らぬ老人がいる。無人の浴室から突然シャワーの音がする。2階の廊下で夜中に徘徊する足音が聞こえる――。

おそらく不安を感じていたのは、晴美さん家族だけではない。住人の中にも、この寮の異常な事態に悩む者がいたのだろう。

2ヶ月ほどした頃。1階の北側奥の部屋の住人が、

「ここ、何かがいます。もう無理です」

と言い、寮を出ていった。

管理人である母親は、一連の出来事を会社に報告する義務がある。ただの噂話であれば放っておけばよいと言われそうだが、二人も退寮者が出ていることは看過できない。北側の部屋を使用不可にしてほしいと伝えた。大企業であり、社内の意思決定にはそれなりの時間が掛かるかと思いきや、その企業はすぐにそれを承諾したという。

1階と2階の北側にある二つの部屋は、開かずの間となった。