上半身だけの男が、ニヤニヤと嗤いながら……
晴美さんが高校に進学した頃のこと。
自分の部屋が欲しいと思うようになった。多感な時期の女性である。プライベート空間を求めるのも無理はない。ただ、彼女が選んだ方法は、例の北側にある開かずの間を自分の部屋にすることだった。
ある日の夜。
その部屋で寝ていると、視線を感じて目が覚めたという。枕元の照明は点いたままだった。体を横に向けて寝ていたのだが、布団の隣に置かれたテレビ台が視界に入る。テレビ台にはガラス戸が付いており、照明の光を受けてまるで鏡のように、寝ている自分の姿が映し出されていた。
しかし、そこにはもう一人、寝ている晴美さんを見下ろしている人影が見える。
――その男は、ボーダーのシャツを着ていた。
「……誰?」
慌てて晴美さんが横になったまま振り返ると、そこには誰もいない。
「見間違いか?」
そう思って再びテレビ台に視線を戻すと、やはりガラス戸には男が映っている。
その男は、上半身しかなかった――。
「まさか……」
晴美さんがもう一度振り返ると、自分を見下ろす男が嗤っていた。
上半身だけの男が、そこにいる。
突然の出来事に、晴美さんは絶句してしまった。
怖いというより「どうしてそこにいるの?」という疑問のほうが強かったという。
ボーダーシャツの男は、ニヤニヤと嗤いながら手招きをしてきた。
手招きをしてくるということは、こちらに接触しようとする意思がある。自分が幻覚のような光景を眺めているという訳ではない。明らかに意識を持った、しかも上半身だけという異常な姿の存在が、自分を誘い込もうとしている。
それに気付いた時、晴美さんは凄まじい恐怖に襲われた。
飛び起きて部屋の灯りをすべて点けたが、部屋には誰もいなかった。