入念に除霊がなされた

「お母さん、私も見てしまったの……」

晴美さんが母親に相談すると、母親は真っ青な顔をして「さすがにもう耐えられない。何とかしないといけない」と狼狽し、翌日会社に相談の連絡をした。意外にも、会社はすぐに動いてくれたという。

著名な大企業が、商売に関して祈願をする話はよく耳にするが、予算を割いて大規模な除霊をする現場というのは珍しい。神道系の神主が五人ほど到着し、玄関から各部屋に至るまで、入念に除霊がなされたという。当日、晴美さんは現場に居合わせていなかったそうだが、至る所に護符が貼られ、大掛かりな儀式が執り行われた。

「ここまでやったんだから。さすがにもう大丈夫でしょう」

母親は気持ちが晴れたようで、安心している様子だった。

しかし、その日の夜。

晴美さんが使っていた北側の部屋に入ると、テレビ台に貼られていた護符はすべて剥がれ落ち、無造作に床に散らばっていた。その部屋の鍵は、晴美さんしか持っていない。住人の仕業とは考えられない。

除霊は何一つ効いていなかった。

「その日も、私はその部屋で寝たんです。除霊したって聞いていましたからね。ただ、テレビ台の近くで寝るのがどうしても気持ち悪くて……。ガラス戸に反射してまた何か見ちゃうと嫌じゃないですか。だから、部屋の隅にテレビ台を動かしたんですよ」

真夜中に目が覚めると、晴美さんの体は強制的にテレビ台の前に移動させられていた。

ガラス戸に映った上半身だけの男は、嬉しそうに嗤いながら手招きを続けていたという。

逆恨みを買ったのかもしれない。その後、その社員寮ではますます霊現象が多発した。晴美さんの母親は、しばらくしてその管理人を辞職し、家族でその寮から退去した。

会社は、何かを知っていたのだろう。

その後、その社員寮を破格の値段で売却したという。

現在、その建物は福祉関係の施設になっている。

※本稿は、『触れてはいけない障りの話』(竹書房)の一部を再編集したものです。

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