偶然で片付けることのできない怪異を、人は「障り」や「祟り」と呼びます。怪談蒐集家の響洋平さんは、これまで15年以上にわたって怪談に携わり、さまざまな怪異体験談を蒐集してきました。そこで今回は、そんな響さんの著書『触れてはいけない障りの話』から抜粋し、お届けします。
この世には間違いなく『触れてはいけない何か』がある
「その部屋には、絶対に何かがあるんです。そう考えないと説明が付かないんですよ」
東京でホテル会社に勤務する須藤さんは、これまで幽霊の存在など信じたことはなかった。いや、今でも幽霊が本当にいるのかどうかの確証は持っていない。しかし、この世には間違いなく『触れてはいけない何か』がある――と本能的に確信した時、人は凄まじい恐怖に襲われるということを身をもって経験したことがあった。
須藤さんが勤務する会社は、関東近郊に複数のホテルをチェーン展開している。
ある年の夏。
彼は千葉県にある支店のホテルへ視察に行くことを任された。支店の支配人と面談し、ホテルの経営状況や稼働率、サービス品質や課題などをチェックする内部監査も兼ねていたという。
「そこは初めて視察に行くホテルでした。売上も好調。マニュアル通り運用されていて、何の問題もないと思っていたんです。ただ、気付いてしまったんですよ……」