本当にその部屋には、何かがあるのだろうか

「その時、私は確信したんです。あの部屋は絶対に使っちゃいけない」

そう話すAさんは、暗い顔で下を向いていた。

後藤氏は病院へ救急搬送されたが、大きな後遺症が残り、会社を辞めたという。

にわかには信じ難いと須藤さんは思ったが、支配人と従業員がそのような嘘をつく理由は思いつかない。ただ、それ以上言っても埒があかないため「とにかく使える部屋は稼働させてくださいね」と言い残し、その日の視察を終えた。

本社には報告すべきだろうか。とはいえ根も葉もない噂が従業員の中で広がっているという理由は納得してもらえないだろう。視察を任された私に責任の一端が及ぶのも厄介だ。営業利益は悪くないので、すぐに問題になる訳ではない。ひとまず次回の視察員の判断に任せるか……。

そんなことを考えながらホテルのエントランスを出ようとした時、須藤さんはふとその部屋が気になった。

――本当にその部屋には、何かがあるのだろうか。

ちょっと見に行ってみよう。そう思い須藤さんは踵を返した。