この部屋にはね、百パーセント幽霊が出るんですよ

すると部屋の中から、別の男性清掃員が出てきた。同じく緊張した面持ちである。

「交代お願いします」

そう言って彼は、緊張の糸が切れたかのように大きく息を吐いた。その男性の腰にも、太いロープが結び付けられている。よく見ると、そのロープは廊下に立つ女性清掃員の腰へと繋がっていた。つまり、二人の清掃員が互いに腰をロープで固く繋ぎ、順番に交代でその部屋の清掃を行うという非常に奇怪な行動を取っていることになる。

須藤さんは、ぞっとした。

そのホテルでは、ルールとして各部屋を一人の清掃員が清掃することになっている。

二人掛かり、かつ交代で清掃をするというのは非効率極まりない。

しかも、互いの腰にロープを結び付けるという異様な状態である。

「この部屋だけ、清掃中に絶対ドアを閉めてはいけないんです。この部屋だけは、二人掛かりで、しかもお互いをロープで縛った状態で清掃しろと言われているんです」

「誰がそんなことを言っているんですか?」

「昔からです。そうしないとダメなんです」

「どうして?」

すると男性の清掃員は、はっきりと言った。

――この部屋にはね、百パーセント幽霊が出るんですよ。

「俺、本当に怖くなったんです。だって、そんな異常なことしているんですよ。従業員も清掃員も、そのホテルで働くすべての人が本気でその部屋に幽霊がいることを確信しているんです。じゃなきゃ、そんな異常なことしません。しかも、なぜロープでお互いを縛らなきゃいけないんですか。あの部屋、間違いなく誰かが死んでます」

須藤さんから、絶対に口外しないという約束でホテル名と場所を教えてもらった。

今でもそのルールは、続いているのだろうか。

※本稿は、『触れてはいけない障りの話』(竹書房)の一部を再編集したものです。

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