内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、令和6年の労働力人口総数に占める65歳以上の者の割合は13.6%と、長期的に上昇傾向にあるそうです。この状況のなか、ジャーナリストの若月澪子さんは「年金だけでは暮らせず、働き続けざるを得ない高齢者が増えている」と語ります。そこで今回は、若月さんがさまざまなシニア高齢者へのインタビュー取材をまとめた『ルポ 過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』より一部引用・再編集してお届けします。
親の介護で全財産を使い果たす 「ミッシング・ワーカー」
「ミッシング・ワーカー」
親の介護や自身の病気などを理由に離職し、労働市場に戻れなくなってしまった中高年世代を、メディアはこう呼んでいる。一度離職すると、中高年は再就職が難しい。そのうち求職活動もしなくなり、「失業者」としてもカウントされず、社会から忘れ去られた存在になってしまう。まさに「ミッシング(失われた)」人である。
「この年になると、自分にはなかなかいい仕事がないですね。実は貧血のせいで立ち眩みもするので、フルタイムで働くのは難しそうです。求人サイトを眺めることもありますが、応募しないまま時が過ぎています」
こう話すのは、パートの仕事を8か月前に失い、現在は無職のMさん(63)。上下白のスポーツブランドのジャージを着た、ごく普通のシニアだ。
Mさんは8か月前まで、とある機械メーカーで働いていた。機械の検査をするパートをしていたというが、契約は1年で終了。貯金は0円。収入は月7万円の年金のみで、両親が残した持ち家に一人で暮らしている。そんな状況でも求人を眺めるだけの日々が続いているという。
とはいえMさんはどこか呑気で、フワフワしている。
「最近は食費を切り詰めているせいで、ちょっと痩せたんですよ」
うれしそうに話すMさん。彼が今のような生活になったのは、介護離職したことがきっかけだ。
「離れて住む父と母が次々と要介護になり、同じタイミングで自分は妻と離婚することになり、会社を辞めて実家に帰りました」