新婚時代の奥田さんと妻・安藤和津さん(写真提供:奥田さん)

「人気者」にはなりたくない

その2ヵ月の間に、3つも主役が来るという、まさに大ブレイクをなしとげる。

――そうなの。藤田組で撮ってる最中に、東陽一監督から「会いたい」と言われて。それが桃井かおりさんの相手役で『もう頬づえはつかない』だった。

それを撮っている最中に、今度は松竹でオーディションがあるからって呼ばれて。山根成之監督からいろんな質問されて帰り、後日再び松竹へ呼ばれて行くと、「君でやることにしたから」。それが『五番町夕霧楼』、松坂慶子さんの相手役の修行僧・正順の役。

その日、松竹本社のビルの喫茶店にうちの社長と入ったら、「どうする? メジャーの映画に出るのはうちでは君が初めてだから、出演料困っちゃうな」って。それで僕が「日活ロマンポルノとかの5倍でどうですか」って言ったら、それが通っちゃったんですよ。

一つの映画が評判になると、ほかからもたくさん仕事の話が来る。だけど僕は、10年間売れなかったんだから、なんにでもすぐに飛びつくのはやめようと決めて、一つ一つ大切に仕事していたら、そのほとんどの作品で賞をいただいた。

その頃、TBSの『男女7人夏物語』で共演した明石家さんまさん、片岡鶴太郎さんのご両人は、忙しいから台詞を覚えてこないんです(笑)。リハーサルでは聞き取れない声でゴニョゴニョやって、本番になると台本を離れて好き勝手なことを喋る。意味は合ってる。

これはすごいなと思って、よし、第2回からは俺も覚えないでいこう、って、台本は最終回まで車の中か寝る前に読むだけにしました。あのドラマはすごい視聴率でしたね。

でも俺はこのまま「人気者」にはなりたくない。そう思っていた時、1冊の脚本が届いた。『海と毒薬』、熊井啓監督の作品ですね。ルンルンで監督に会いに行ったら、僕の顔を見て、「はい、わかりました。ご苦労さん」って、簡単なんですよ。その部屋を出て、長い廊下を歩いて帰った。

撮影が始まって、監督と2人で鮨屋に行った時に聞かされたんですが、「実はあの時、長い廊下を歩く君の後ろ姿をじっと見てたんだよ」って。それがオーディションだった。嬉しかったですね。