2014年に88歳で生涯を閉じた作家・宮尾登美子さんと、公私ともに交流のあった林真理子さん。林さんが丹念な取材をもとに綴った本誌連載「綴る女 評伝・宮尾登美子」が書籍化されました。宮尾作品の魅力や取材秘話、『綴る女』の読みどころについて聞きました(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)
いつか先生の評伝を
宮尾登美子先生に初めてお目にかかったのは、1983(昭和58)年。『NHK紅白歌合戦』の特別審査員をやらせていただいた時、ご一緒しました。高知で芸妓娼妓紹介業、つまり女衒(ぜげん)をしていた宮尾さんの実父がモデルの『櫂(かい)』を読んでいたので、「今日は高知からいらしたのですか?」と伺ったところ、「今は東京に住んでいます」というお答えでした。
その後、上梓した小説はすべてベストセラーとなり、映画化されると大ヒット。私もすっかり宮尾ワールドのファンになりました。きっちり織られた織物のような格調高い文体にも、登場する女性たちのドラマチックな人生にも、すごく惹かれたのです。やがて個人的におつきあいするようになり、お食事をご一緒することも。光栄なことに、着物もいただきました。
ある時「私、いつか先生の評伝を書きたいのです」と言ったところ、「いいわよ。その時は、なんでも話してあげますよ」と即答してくださいました。でも残念なことに、お話を伺う前に、永遠の別れが訪れてしまったのです。