自分が体験した時代の空気感を物語の中で再現したかった
――物語は昭和天皇が崩御して平成に移り変わる1989年から始まります。当時の空気感が見事に蘇るような小池さんの細部にわたる描写力にも驚きました。
私は基本的に小説の中に、当たり前のようにしてスマホを登場させることが好きではありません。メール1本で、LINEひとつで、スタンプ1個で、簡単に連絡がとれたり、感情を伝えた気になってしまう時代は、むしろ小説として描きにくい。
特に今回は彩和という一人の女性が生きた約30年間を描く物語にしたかったので、バブルが崩壊するかどうかという時期にまで遡りました。私自身が体験した時代なので五感で受け止めてきた空気感というのがあります。その感覚を物語の中で再現したかった。バブル時代を知っている読者の方なら、あの時代は良くも悪くも総じて面白かった、今と比べて何かが決定的に違っていた、と共感していただける場面も多いのではないかと思います。
本作が刊行されたのは2025年の秋ですが、ネットなどに寄せられる読者の反応を見ている限りで言えば、意外と男性が読んでくれているのだなという印象を受けています。時代背景がよかったという方もいますし、『ウロボロスの環』というタイトルに惹かれたという方も。タイトルのイメージにあわせたカバー絵と装丁にしていただいたことで、たまたまですが、男性読者が手に取りやすいものになったのかもしれません。タイトルは私自身、ちょっとわかりづらいかなという躊躇もあったのですが、読み終えて初めて、タイトルの意味がわかるという仕掛けになっていますので、その意味ではよかったと思っています。