本作のテーマは、生きることの本質とは何か?
――「ウロボロスの環」というのは、紀元前の古代エジプトで誕生したとされる「死と再生を意味する縁起物」で、本作の中では彩和が俊輔のイタリア旅行のお土産としてウロボロスの輪を模ったブレスレットを贈られるという設定です。
私は三島由紀夫作品を偏愛しているのですが、彼の作品の中には、自らの尾を飲み込み続けている巨大な蛇の環が地球を取り巻いている、というような一節があります。ウロボロス、という言葉と共に深く心に刻まれていました。私自身、夫の死を経た深い喪失感の中で、過去に引き戻されたまま暮らしていて、基本的にそれは今も変わらないのですが、時間の流れの不思議さについて考えることが多くありました。死別によって、それまでの時間が断ち切られて、まったく別の時間を1人で生きているような感覚があった。つらい感覚でした。過去と現在がつながっていない、というような。
でも、そんな中、時間は過去から現在、そして未来へとまっすぐに過ぎていくのではなく、ウロボロスのように、果てしなく連環しているのではないか、と考えるようになったのです。まっすぐに過ぎていく、と思うから、分断されていると感じるわけで、本当はそうではないのではないか、と。時間には始まりも終わりもない、幸福なことも不幸もすべてつながっていて、喜びも哀しみも滋養にしながら大きな環となって回り続けているのではないか、私達はその時間の流れに身を委ねて、ぐるぐるとゆっくりまわりながら生きているのではないかと。そう考えるようになれたことは、ひとつの大きな救い、希望でした。
今回、そうした抽象的なイメージを長編小説の中で表現することができてよかったと思っています。