小池真理子さん
撮影:目黒智子
小池真理子さんの最新刊『ウロボロスの環』は、小池さん自身が両親と夫を見送ったあとの喪失感をもとに生まれた物語。「実は時間には始まりも終わりもなく、喜びも哀しみも苦しみも滋養にして、大きな環を描きながら永遠に回り続けているのではないか。そんな想いを言葉にしたかった」と語る小池さんに、執筆に至る経緯、そして改めて本作のテーマについて伺いました。(構成:丸山あかね)

ストーリー

若くして夫を亡くしシングルマザーとなった彩和は、青山で骨董店を営む18歳年上の俊輔に見初められ再婚する。教養に満ち、洒脱で資産家でもある俊輔は娘を育てるうえで理想的な夫だったのだが、俊輔の秘書兼運転手である野々宮と彩和との些細な触れ合いを機に歯車が狂い始める。さらに運命の悪戯としか思えないような真実が浮かび上がり……。3人の男女が織りなす約30年に渡る愛憎劇の末に待ち受けていた結末とは?

夫の死後、もう書けないかもしれないと思ったことも

――帯にある「人生を狂わせるほどの秘密ではなかった。そのはずだった」という一文を見て心が騒ぎ、序章の冒頭に「彩和にはもともと、不幸や不運を想像しすぎるところがあった」と記されているのを読んで、早くも小池ワールドへ誘われました。570ページに渡る大作ですが、読み終わるのが惜しくて仕方がなかったです。

ありがとうございます。本作は2023年6月から2025年4月まで集英社の『小説すばる』で連載していたものですが、偶然にも、2021年に刊行された『神よ憐れみたまえ』(新潮社)とまったく同じ1100枚、まったく同じページ数になって驚きました。とにかく大長編を間を空けずに続けて書くというのは、なかなかに大変なことでした。私も昨年73歳になりましたから。気力体力、集中力との闘いでした。(笑)

『神よ憐れみたまえ』書影
神よ憐れみたまえ』(著:小池 真理子/新潮社)

2021年に発表した小説『神よ憐れみたまえ』は、構想および執筆中に両親を看取り、2018年に思いがけず夫が末期の肺がんであることがわかって、闘病に寄り添い、2020年の1月に見送るという怒涛の10年のあいだに書きおろしたものでした。執筆中からすでに次回は『小説すばる』でという依頼をいただいていたのですが、スタートが遅れに遅れてしまって。長編はかなりの体力と気力が求められるので、実のところ書けないかもしれないと思っていた時期もあったのです。

当時の私はコロナの中で2020年6月から朝日新聞に連載していたエッセイ『月夜の森の梟』に自分の喪失感を託して、何とか心のバランスを保っていたという感じで。そんな中、かろうじて決めていたのは心理小説にしようということだけでした。