いつも思い出す人

この話をするときに、いつも思い出す人がいます。

その方はものすごいお金持ちのマダムだったのですが、ご主人が亡くなったときの遺産相続でご家族と揉めに揉めて、体一つで家を出てこられたのだそうです。

『毒親を在宅で見送った緩和ケア医が伝える 関係のよくない親を看取るということ』(著:岡山容子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

そしてそんな彼女が病を得て、ケアマネジャーさんから依頼され、私が訪問診療を始めることになりました。

もう残りの時間も長くないと思われたタイミングの出来事です。訪問看護師さんが私のところにやってきて、こう言うのです。

「先生、あの方のご家族の連絡先がわかるから、『ご家族に会ったほうがいいよ』って私は言ったんです。けれどもご本人は『いやだ』っておっしゃるんですよ。先生、ご本人を説得してください」

私はあきれて、こう返しました。

「なんでやねん。そんなもん、会いたくないのに会わんでええやんか。私らがあの方のことを大事に思って、愛情をもって見送ったら、それでええやんか。本人が家族に会いたないと言っているものをなんで説得せなあかんの」

その言葉を聞いて、看護師さんはがっかりして帰りました。