吉行和子さんの女優魂

村山 それだけの思いを監督から受け取ったということで、今回、この作品に出演した女優さんたちはどなたも素晴らしかったですね。

浜野 はい。吉行和子さんを始め信頼関係のある女優さんばかりでしたので、とても助けられました。そうそう、菜葉菜さん、最初は不安だったようで「文子をどう演じていいかわからない」と言うので、私、黙って自分を指さしたんですよ。そうしたら、「わかりました」って。(笑)

村山 文子は監督自身なのだと腑に落ちた。

浜野 現場での菜葉菜さんは文子が乗り移ったみたいでした。「本番!」でカメラが回りはじめると、菜葉菜さんの中から文子が出てくる。私も「文子が出たっ!」って感じた時にOKを出す。半世紀以上映画監督をやっていますけど、こんな体験は初めてでした。

金子文子(菜葉菜)
獄中でも自由を求め続けた文子(C)旦々舎

村山 幼い文子に辛くあたる祖母役を演じた吉行和子さんも、迫真の演技でしたね。

浜野 昨年、ご病気で亡くなられてしまい本当に残念です。撮影当日もロケセットの玄関から歩いて部屋に上がれるのだろうかと心配したんです。それが、カメラが回った瞬間、ビシッと気合が入って、鬼のような形相の祖母を見事に演じてくれました。まさに奇跡です。吉行さんの女優魂に心から感服しました。

村山 ご病気を患っていらっしゃるなんて、画面からはまったくわかりませんでした。

浜野 それが吉行さんのすごいところです。ご飯を食べるシーンも「実際に食べなくていいですよ」と言ったのに、テストのときから毎回ご飯を口に入れて……。確かに、文子から見たら、実際に食べているほうがひもじさのリアリティは出るんですよね。

村山 とことん演じ切ってくださった。

浜野 吉行さん、映画が完成した後の試写に来られなかったんです。それで、DVDに焼いてご自宅にお届けしたらすぐに観てくださって、パンフレットにコメントも寄せてくれたんです。観てもらえてよかった、間に合ってよかった、と心から思っています。

文子の朝鮮の祖母(吉行和子)
体調の悪い中、食べる演技をやめなかった吉行さん。最期の出演作品となった(C)旦々舎

村山 吉行さんはたしか、監督にとっては特別な存在ですよね?

浜野 最初に撮った『第七官界彷徨-尾崎翠を探して』(1998)から私の自主映画全てに出演してくださっています。それまでピンク映画しか撮ったことがない私に偏見など持たず、却って面白がってくれたみたいで「これからも、浜野監督の作品に出たいです」と言ってくださった。私にとって本当に大切な人でした。この映画が遺作になってしまったのは残念ですけど、最後に吉行さんに出ていただけて本当によかったと思います。