「あー、さっぱりした。しばらく寝袋で寝てたんで、体がバッキバキになってました。大川さんはどうでした?」
「すごくよかった。よかったです」
「あ、よかった。お客さんの中にいるんです、仕事が長時間のデスクワークで、腰痛や肩こりに悩んで、思い切ってマッサージチェア買ったらかなり調子が良くなったって人が。参考になったらうれしいです」
「いいですね……」
 自分が先ほど体験したマッサージチェアの価格は四十万。けっして気軽な買い物ではない。
 でも、温かかった。温かさと安心が同時にやってきた。それは、傑の人生ではずいぶん珍しいことだった。
 買ってしまおうか。大切にできる気がする。
「平野さんは」
 ぽん、とふいに体の中でなにかが弾み、そのまま言う予定のなかった言葉となって、口から飛び出した。
「私をマッサージチェアと会わせてくれたように、誰かに影響を与え、影響を返され、他の人としっかり人生を噛み合わせながら生きているんだろうって、今、すごく実感しました」
 声には、羨望が混ざった。時生はまた驚いた様子で目を丸くした。
「俺みたいな、社会とてんでつながっていないクリエイターになに言ってるんですか。誰かの人生への影響なら、会社を切り盛りして従業員に給料を支払っている大川さんの方が、よっぽど大きくしていますよ」
「そういうことじゃないんです」
「じゃないんですか」
 時生は首を傾け、まるで思考をたぐるような遅めのまばたきをした。