一ヶ月後、傑は有楽町駅近くのアートギャラリーで催された時生の個展を訪ねた。会場は薄暗く、森を思わせるほのかな香りがした。なんらかのアロマを焚いているのだろう。展示された作品は一つ一つがスポットライトで照らされ、今にも動き出しそうな生々しい陰影を帯びている。
 衿シャツにスラックスという先日とは打って変わって小綺麗な服装の時生は、来場者の一人と話し込んでいた。傑は静かに展示を巡った。凝った思考をほぐされるような心もとない感覚を覚えつつ、自然の曲線で作られたさまざまな作品を鑑賞する。レンタルスペースで一度目にしたものも多いが、どれもこれも明確な意図の下で展示されるとたたずまいがだいぶ違った。物体としてまとう気迫が変わる。
 展示の最後に、見覚えのない作品があった。
 流木で作られた人間。これまでにもいくつか展示されていたが、それは片手に書類が詰まったビジネスバッグを持ち、まるで落とし物に気づいたかのような姿勢で体を曲げていた。
ぎこちなく腕を伸ばし、足元の物体に触れようとしている。細枝を組んで作られた、長い尾をそよがせる丸いものに。

(完)
 

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