「俺が流木で動物を作り始めたきっかけは、大川さんが俺の作品を『猫の丸み』って言ったことです。それまでは枝のうねりに逆らわない抽象的なイメージを目指して作っていたので、猫か、そういう作品も作れそうだなって新鮮でした。手探りで動物を作り、だんだん人も作れるようになり、今日が来ました。もちろん毎年いただいている支援も含めて、俺たちはもうとっくにお互いの人生を噛み合わせて前に進んでいます」
「歯車みたいに?」
「さあ? もしかしたら、俺の流木作品みたいな感じかもしれません」
「それはいいな」
「いつか、誰も見たことがないような、大きくて面白いものになれたらいいですね」
そうですね、と一つ頷き、傑は寝室の壁にかかっているランプシェードを思い出した。好きだった。けれど苦手だった。苦手であることが、悲しかった。触れたくても触れがたかった、黒豆ときなこの形だ。
「帰って、『猫の丸み』を撫でてやらないと」
漏れた呟きを聞き、時生はうれしそうに笑った。傑はマッサージチェアのパンフレットをズボンの尻ポケットにねじ込んだ。
「すみません、すっかり私の都合で振り回してしまいました。平野さんの素材探しに戻りましょう」
「大丈夫です」
時生は笑ったまま傑を押しとどめる素振りでてのひらを向けた。
「なんとなく完成図が見えたので、大丈夫です」
「はあ」
「アトリエに戻ります。今日はありがとうございました」
時生はお辞儀をするとくるりと踵を返し、足早にエレベーターホールへ向かった。もう傑に一切の関心を払っていない。
傑は時生を見送り、一度はしまったパンフレットを開き直した。
「すみません。購入を検討しているんですが、こちらのマシンも試してみていいですか?」
特設コーナーの店員に声をかけ、先ほど自分が体験したマッサージチェアとは型が異なる、もう一つのチェアを指さした。
