着物から始める「日本らしさ」の再生

日本らしさを体現したさまざまな文化が「遺産」に変わりつつあります。いったん「遺産」になってしまっては、日々の生活から離れてしまい、「日本らしさ」を取り戻すことは困難になります。

どうすればよいのか?日々の生活のなかで、「日本らしさ」を体現した文化に少しでも触れることでしょう。例えば、せめて何かの儀式の折には着物に袖を通すようにすることです。

着物や帯をながめるとき、描かれた柄や技法から季節のうつろいや産地を、また家紋からご先祖様や着物を贈ってくれた両親を思うでしょう。そして、その思いを抱きながら、肌着、襦袢、着物、帯と、何度も紐を結んでいくことで心が整い、万物とのつながりを感じとれる。それは洋服では感じられない、「らしさ」を養うことになります。

弊社の新入社員には、入社式の前日に5時間ほどで着付けを教えて、当日は自分で着物を来て参加させます。それから着物生活が始まり二週間もたてば、着物生活の方が、楽で心地よいと言い出します。

戦後の日本人は「日本らしさ」に代わって「欧米らしさ」を追い求めるようになり、それが当たり前になってしまいました。

だからこそ今、「日本らしさ」を体感してみると、遺伝子が覚えていて心地よさを感じるようです。

確かに着物は、洋服と比べれば手間がかかり、早く着ることはできません。しかし、着慣れると全然苦しくはないし、かえって体を隙なくくるむ洋服よりも首元や袖や足首が大きく空いた着物の方が開放感もあり、風や自然を感じられる。袖や裾のたぶりが心を周りに通わせてくれて、所作に落ち着きを生んでくれる。太い帯を結ぶことで背筋が伸びて気持ちが整う。実は日本人の遺伝子は、日本らしさを求めているのです。

SNS上で些細なことが突然ブームになることがあるように、着物を定期的にみんなが着るようにしたら「日本らしさ」は再生されるような気がします。

そして、いま世界中から日本を訪れる旅行客が年々増えているように、世界は日本ブーム。合理主義下で育ってきた人々が「日本らしさ」の価値を右肩上がりで評価しています。

世界を優しくするためにも、「日本らしさ」を取り戻すことは「マスト」(must=しなければならない)。私はそう考えています。

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