発熱がきっかけで食欲がなくなった父
病院には約束の5時ちょうどに着くことができた。待ち構えていた看護師さんが父を車椅子に乗せて検査室に連れて行ってくれた。コロナとインフルエンザと血液の検査等をするというので、私は待合室で待っていた。
私が呼ばれて診察室に入ると先生は、ホームの看護師さんが書いてくれたメモを照らし合わせて説明してくれた。
「コロナもインフルエンザも陰性でした。今は微熱ですし、脱水症状もありませんね。メモに書いてあるけど、経口補水液を飲ませてもらっていたからかもしれません。念のため肺のレントゲンを撮りましたが、肺炎にはなっていません。熱が上がった時のために解熱剤を出しておきますが、心配ないと思います」
結果を聞いて父も安心したらしく、車に戻るとにわかに元気になった。
「おなかが減ったな。何か食べてから帰らないか?」
「まだ微熱があるから、外食は無理だよ。コンビニに寄って好きなものを買うのはどう?」
父は少し考えてから「肉まんと、梅干しのおにぎりとコーンスープがいい」と答えた。
北海道と言えばとうもろこし。私はよくコーンスープを自宅でとうもろこしから作って持っていくので、父のお気に入りなのだ。今日は父の居室の棚にしまってある、お湯を入れるタイプのコーンスープを出してあげよう。コンビニで肉まんとおにぎりを買って老人ホームに戻った。
迎えに行った時と同じように車を横付けして、受付に報告に行くと介護士さんが車椅子で父を迎えに来てくれた。
「夕食を買ってきたので、食べさせてから帰ります。遅い時間にすみませんが、私も一緒に入室しますのでお願いします」
コーンスープ用のお湯を沸かしながら、父にうがいと手洗いを促した。言われるままに父はそれをしてからベッドに腰を下ろした。テレビのニュースを見る目が虚ろだ。
スープは飲んでくれたが、肉まんとおにぎりはいらないと言って、横になってしまった。翌朝ホームに電話して様子を訊ねると、朝食は食べなかったという。
2、3日すると目に見えて痩せたのがわかった。97歳の父が段々食べられなくなるのは自然の摂理のように思えるが、衰弱するのを見ているのは切ない。私はこれからどう寄り添えばいいのだろう。
(づづく)
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