夫も妻も互いの目から離れる時間と空間を

会社勤めを続けてきた定年後の人たちには、こうしたことが特に重要になる。というのも、自営業の夫婦は、始めから仕事も生活も一緒なので、顔を突き合わせていることが習慣化されてきた。夫婦が協力し合って仕事や生活をするスタイルに慣れている人は、あえて「隠れ家」を作る必要などないだろう。

ところが会社に夫を送り出したあとに一人の時間を送ってきた専業主婦の場合は、自分の生活パターンが崩壊してしまうのだ。当然、ストレスを感じる人も多いだろう。やはり数十年も続けてきた生活パターンによって、意識も行動も完成型に近づいている。それを一朝一夕で崩すことはできない。

『定年後の日本人は世界一の楽園を生きる』(著:佐藤優/飛鳥新社)

であれば、無理して夫婦がずっと一緒にいるよりも、お互いが自分の時間と空間を確保することこそが、定年後の夫婦関係を良好なものとするだろう。

2020年にソニー損保が20歳から49歳の結婚している男女を対象に行った調査では、コロナ禍での「夫婦の距離感」についての設問に、夫は「一緒にいたい」と答えた人が56.2%と過半数だったのに対し、逆に妻は「一定時間は離れていたい」と答えた人が53.0%で過半数に……夫と妻のあいだで意識の差が見られた。家事の負担が妻にかかることが多く、夫と一緒にいると妻の家庭内の仕事が増えることが関係していると考えられる。

これまで夫は、日中は家を留守にしており、その間、妻は誰のことも気にせず自由な時間を享受してきた。それを前提にして、夫婦関係も家庭も成り立っていたという現実がある。それがコロナ禍で、図らずも全世代の夫婦の問題として表面化した。

定年後の夫婦にとっては、これから顔を突き合わせて生活していくためには、新しい関係を築いていく必要があるのだ。

これは夫にとっても同じことだろう。妻の目を離れ、気を抜いて過ごす時間が、やはり必要となるはず。定年後に突然、妻との距離を詰めても、相手が引いてしまうかもしれない。それでは当然、長続きはしないだろう。

厚生労働省の調査によると、離婚件数は、2002年の28万9836件をピークに減少し、2023年は18万3808件となっている。ところがこれを同居期間別に見ると、20年未満の夫婦の離婚件数がほぼ横ばいであるのに対し、20年以上の熟年夫婦の離婚件数は、徐々に増加している。2023年には4万件に迫り、全体の5分の1程度にまで増えているのだ。

夫も妻も互いの目から離れる時間と空間を確保する──これが定年後の人たちの夫婦円満の秘訣。もちろん日常的なコミュニケーションは必要だが、同時に適切な距離感も必要となるのだ。