「今日ね、新規で広告を出稿してくれる依頼主さんと打ち合わせをしたんだけど……私の書いた記事を気に入ってくれて」
「そう、よかったね」
「すごく丁寧で親切でいい人だったの。もっといい広告記事を書かなきゃ、って励みになった」
「その人、男の人? どんな人?」
「男の人だけど……どんなって……薬用酒を造ってる蔵元さん」
「カッコいい?」
「まあ、普通にカッコいいけど、私と同じくらいの歳だから、もうおじいちゃんよ」
「ふうん。おじいちゃんねえ……。その人、結婚してる?」
「独り身だって言ってたけど……」
 麻子がいたずらっぽく笑いた。まるで学生の頃のように戻ったような子供っぽい眼だった。
「お母さん、その人のこと、好きになったんでしょ」
 いきなり突っ込まれて動揺してしまった。
「まさか。いい人だけど、私はもう還暦だし、向こうだって下駄履いてるし……」
「下駄?」
「下駄を履いて日傘を差してるの。印半纏を羽織ってるし……」
「それで普通にカッコいいって相当じゃない?」
「そうかもしれないけど、あくまでも仕事の打ち合わせで会っただけだから。そういうのじゃないの」
 すると、麻子がじっとこちらを見た。
「ねえ、お母さん、自分で気付いてないの? 私、こんなにキラキラしてるお母さん見るのはじめてだよ」
 返事ができなかった。キラキラ。そんな陳腐な言葉にうろたえているのだ。
「ねえ、向こうも独りなんでしょ? いっそ付き合ったら?」
「馬鹿なこと言わないで。いい歳して恥ずかしいでしょ。とにかくこれは仕事なんだから。こっちが変なこと考えたら、向こうだって迷惑でしょ」
「でも、現にお母さんはその人と会って幸せになってる。否定することないよ。ほら、片思いっていうか……推しみたいな感じだと思えば恥ずかしくなんかないって」
 麻子が食い下がってきた。いくら親子とはいえ、こんなにも踏み込んで来る性格ではなかったはずだ。
 不思議に思って麻子を見た。冗談めかしてはいるが、眼の奥になにか必死なものがある。
 ああ、そうか。この子は私のことを心配している。気を遣ってくれているのだ。自分が周りに迷惑を掛けていると思っているから――。