父に守られて

――さっきも言ったように、父は新聞記者だったんですよね。僕が5歳の時に、アモイ(中華人民共和国福建省南部の都市)で亡くなった。ですからほんの少ししか、父の記憶はないんですよ。

短歌を書いたり、それから絵も描いていて、その絵が1枚も残っていないことが非常に残念なんですけど。子どもの時、その父の絵を見て「上手だなあ」と思いましたね。

あと、父の文章を読んでみると、絵を描くこと、詩を書くこと、それは一生やっていくって。どんな職業に就こうとも、それは生涯やっていくって書いてあるのね。それで、どうしても自分の本を出したいって書いてあったんです。32歳で亡くなったんだけど、僕はそれを読んだ時、父親の遺志を自分が継がなくちゃいけないと思ったんですよ。

僕はこれまでにずいぶん本を出しましたけど、子ども相手のものが多いんですよ。父の考えていた本とはちょっと違ったかなと思うんだけど、それでも、ある程度は父の考えていたことを、実現できたかなと思っています。

93歳になったいまでも、僕は父のことが、すごく好きなんですよ。母よりも父を。どうしてそんなに好きなのか、よくわからないんだけど。いつも心の中に父がいて、毎日、仏壇を拝むんです。「お父さん、ありがとう」って。父のDNAをいくらかもらって、そのDNAでやっと仕事しているなあという気持ちが、自分の中にあるのでね。

 

※本稿は『何のために生まれてきたの?』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。

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