タブレット 古いものが好きなので楽しいです。先生が「放浪の時代」と呼んでいるレコード業界にいらした20~30代の頃は、作家デビューなさる前ですよね。

五木 そう。当時のレコード会社には、いろいろな人間が入り交じっていた。歌手のタブレットさんには、音楽業界の面白さもやるせなさも十分わかってもらえると思うんだけど。

タブレット 共感と言うとおこがましいんですが、放浪時代のお話は胸に迫ってきます。

五木 当時の芸能界は、ある意味別世界でしたからね。その世界を体験したことは、自分にとって大きな収穫になってる。

タブレット あらためて、NHK『ラジオ深夜便』内のコーナー、「五木寛之のラジオ千夜一話」で先生が取り上げられてきた曲も全部聴いてきました。やはり歌の力と言いますか、時代を創るエネルギーを感じるんです。

五木 なるほど。歌には、人をいい気持ちにさせるだけではなく、聴く人の心を一つにして、ある方向に導いていく力があるんだ。たとえば戦時中、軍歌のほかに国民歌謡というのが流行した。これは、本当に大きな力を持っていました。

タブレット 「明日はお立ちか」みたいな軍国歌謡を聴くと、静かな闘志が体の底から湧き出てくるような感覚になります。

五木 実際に力があったと思う。若い兵士たちは出撃前夜に、みんなで「同期の桜」を大声で歌って自分を鼓舞したり。

タブレット その歌に自分の感情を預けて、迷いやためらいを消し去っていたのでしょうか。

五木 かつて、イスラム学者の五十嵐一(ひとし)さんは、「明治維新は短調(マイナー)でやってきた」と言っています。たしかに官軍が歌い行進していた「宮さん宮さん(トンヤレ節)」など、時代を創るエネルギーでした。

モスクワで見た軍隊の行進曲は、ロシア民謡の「ともしび」だったし、「インターナショナル」は、革命歌謡ですね。〈いざ出撃〉というとき、元気な明るい歌ではなく、センチメンタルでマイナーな曲が歌われるところが面白いよね。

タブレット ぼくは切ない響きのマイナーなメロディが好きで、それを聴くと元気が出るので、すごくよくわかります。悲しいとき、寂しいとき、慰めてくれるのは、悲しい歌なんですよね。