つらい浮世の澱を洗い流してくれる
五木 タブレットさんはお若いのに、なんでそんなに古い歌謡曲が好きなんだろうね。雑誌の企画で、読者に「あなたの好きな昭和歌謡」の投稿を募ったら、青春時代に流行した歌や両親が好きで歌っていた曲がずいぶんたくさんあがりましたね。
大体、歌と個人の体験なり、実体験なりはつながっているんだけれど、タブレットさんの場合は、ちょっと違うよね。
タブレット ぼくは幼稚園の頃から、周囲との違和感を覚えていました。女の子と間違われたり、運動神経が悪いので体育が苦手だったり。いろいろなことが積み重なり、学校に行きたくなかったんです。
現実の風に吹かれたくない一心で、小学生の頃から古書店に通い、相撲や野球の雑誌のバックナンバーを探していました。好きな音楽やスポーツは過去のものばかりで。
五木 それが一つの分野になってるところが凄い。今は、インターネットやゲームにはまる子どもが多いらしいけれど、タブレットさんは、渋い、レトロ趣味だったんだね。
タブレット 当時は自分のようなマニアックな人間がほかにも存在していることを知らず、疎外感がありました。自分は変人というか変態というか……。一人で歌謡曲を聴いて調べて楽しんでいる、完全に世捨て人状態だったと思います。
五木 でも今は歌手として、また歌謡曲考証家として大活躍して一翼をなしている。ご家族も歌がお好きだったんですか?
タブレット 昭和歌謡がいいなと思ったきっかけは、父が車で水原弘さんの曲を流していたことです。彼の『絶唱 最後の録音盤』というアルバムが、どこに行くときもかかっていました。
その頃、街にホーロー看板がまだあって、水原さんの看板を見つけると父が、「これはあの人の歌だよ。酒飲みすぎて血を吐いて死んだんだ」。なんでそんな話を子どもに聞かせるんだと思いますよね(笑)。
でも、結局その話が頭にこびりつき、彼の歌も心に刺さり……。そこからはまったような気がします。