花と言えば、桜
無造作に破ったノートの切れ端には「有難うございました 一秀」と書いてあり、お弁当箱の上に置いてあった。
母親としての私の回路はとても単純に出来ていて、それだけで心は満開の花が咲き、頬が緩んだ。
そう花と言えば、桜。
狂言の世界でも花と言えば桜を指す。和泉流には室町時代から伝わる現行曲が254曲伝承されている。実に多くの曲が、平和なときも戦乱の御代も潜り抜けて今の世に受け継がれてきた。
その中でも、桜を題材にした演目が3曲ある。「花争」(はなあらそい)、「花盗人」(はなぬすびと)そして「花折」(はなおり)である。
「花争」は、花見に行こうという主と、その言葉を聞きとがめた太郎冠者が、「花」というか「桜」というかで言葉争いになり、たがいに古歌の例を引き合いに出して争いになるお話。この勝負、太郎冠者が勝つのだが、世が世ならご主人を言い負かす等とは出来ない時代もあったはず。しかし狂言の舞台の上は天下御免。負けた主を見てはうさを晴らしている太郎冠者。思えば今は様々な人間関係の中でも言論の自由度が増えた良い時代である。ただし、ハラスメントにはご注意を。
桜の作り物が舞台に設えられる曲では、その景色だけでも春らしい風情だ。
狂言は、「余白の芸能」とも言われ、舞台では大道具は殆ど用いられない。その分、観る方それぞれ心の中で景色を想い描きながら鑑賞できる。舞台を一緒に創り上げる創造性がそこにはある。
