「死体」に腕をつかまれた警察官

事の始めは、「呼びかけに応えない人がいる」との通報であった。

ベルナールのような一人暮らしの人物の場合に特に言えることだが、「外から呼びかけても返事がないので、事件か事故が懸念された」というお馴染みのパターンだ。ドアをこじ開けた警察官2人は、意識不明のベルナールを発見した。呼びかけてみたが答えは返ってこない。ベルナールの近くでは、蛆虫が這い回っていた。警察官にとって、これは遺体の腐敗が始まっている証拠である! 推論として何ら問題はない。そこで検察に連絡が行き、私が現場に派遣されることになった、というわけだ。

私が到着するのを待つあいだ、警察官らは不可欠な手続きとしてベルナールの身元を確認することにした。身分証類を探したのだが、あいにくなことに部屋の中には見当たらなかった。だがベルナールは背広を身に着けていたので、内ポケットに財布を入れているはずだ、と考えた。2人のうち、こうした場面に慣れていたほうの警官が、うつぶせになっているベルナールの腹と床のあいだに手を滑り込ませた。そして背広の内ポケットをまさぐると、財布の手ごたえを感じた。そこで財布をつかみ、引き抜き始めた。

その腕を「死人」が突然つかんだ。

この警官の驚きと恐怖は大変なものだったろう。もし心臓が弱かったら心筋梗塞を起こしていたかもしれない。

蛆虫が這い回っていたのだから、ベルナールが死んでいると判断するのは筋が通っていた。だが、実際、ベルナールは死んでおらず、腐敗もしていなかった。

では、蛆虫の存在はどうやって説明できるのだろう?