ある日突然……
その日は、突然訪れました。
ある日突然ですよ。ある日突然、うまいうまいっつって食ってたナガラミが、次の1個を食った瞬間、「うえー、まっず!」ってなったんです。なにが起きたのか、私も訳わかんない。たぶん、一生のうちに摂取していい貝の量の限界を超えてしまったんでしょう。人間にはリミッターみたいな、なにかしらそういうものがあると思うんですね。何万年前からの教えというか、おなじもんばっか食ってたらダメだぞっていう先人たちのDNAがきっと私たちの体には受け継がれていて、その禁忌に触れてしまったんでしょう。
父親は私に起きた事態を理解していません。そりゃあ理解できませんよ。ついさっきまでうれしそうにナガラミを食ってたのに急にまずいって言いだすんだから。
「はあ!? 食わねえのか!?」
「うん、もう食べれない」
「腹いっぱいなのかお前?」
「そうじゃなくて、もうまずい」
「はあ……?」
その日を境に一切、貝を食えなくなりました。ナガラミだけじゃなくて、しじみもアサリもホタテもカキも、ほかの貝も全部。
でも、「ナガラミはものすごくうまい」っていう記憶をそう簡単に消去できない。ナガラミを好きな気持ちを捨てきれない。またうまく思える日が来るんじゃないか、ってこりずに食ってみるんですけど、やっぱり食えない。ほかの貝も「うまそうだな」と思うんです。でも食えない。何度チャレンジしてもだめでした。
チャレンジしてわかったのは、味の問題じゃないということ。しじみのみそ汁とかのダシは飲める。でも身が食えない。
海から採ってすぐのハマグリを網の上に載せて焼いてぐつぐつ言わしてパカッて開いてきたところに醤油たらして、それをジュワーってさせるやつよくテレビでやってますよね。それを食べながら日本酒飲んで「くーっ!」とかやってますよね。めっちゃうまそうじゃないですか。だから食ってみるんです。でも口に入れてハマグリの身が歯にあたった瞬間、うわああああって皿にもどしちゃう。もうだめですね。